創薬業界の薬剤師のお仕事 医薬品開発 創薬 基礎研究から製造まで ① 創薬研究

ここでは医薬品の開発プロセスについて解説します。

医薬品は様々な試験や課題をパスして初めて医薬品として承認されます。
そのため、開発には多くの人材・職種が複雑に絡み合っています。


薬の一生を大きく分けると、①創薬研究、②医薬品開発、③販売・育薬となっています。
このカラムでは① 創薬研究 の部分について解説します。

図:医薬品開発フロー(創薬研究から販売の過程まで

① 創薬研究

 まずは、医薬品開発フローの最も上流である創薬研究分野について解説します。

新薬候補探索

その名の通り、新薬になりえる候補化合物の探索をする基礎研究の部分です。

大まかな作業の流れとして、基礎化合物の探査→薬理研究、薬効評価 のプロセスを踏みます。

 
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この分野は非常にトレンドが目まぐるしく、素早くシフトしていくことが特徴です。

探索方法

かつての探索方法の主流は、微生物を培養から有効物質を抽出する方法でした。

代表的な逸話として、寄生虫のアフリカの風土病の治療薬である駆虫薬:イベルメクチンを開発し、2015年ノーベル生理学医学賞を受賞を受賞した大村智博士を思い出します。

大村博士の大きな功績は微生物の生産する天然有機化合物の探索研究を45年以上行い、これまでに480種を超える新規化合物を発見したことです。

静岡県のゴルフ場の土壌から新種の放線菌が発見し、そこからイベルメクチンの創造につながったのは有名な逸話です。

そして今も尚、大村さんが発見した化合物をベースとした研究が現在も多数実施されています。大村さんはかつての新薬候補探索の礎を築いた第一人者なのです。

そののち、1980年代ごろから有機合成技術の向上とともに、化合物を合成改良していく時代に突入しました。
ベース化合物を一部修飾した類似化合物を多数・網羅的に作成し、データベース化が進みました。

データベース化をもとに、ハイスループットスクリーニング(HTS)という手法が確立されます。主にロボット工学や高速コンピュータ技術の近代的な進歩により、化学的、薬理学的な何百万もの試験を迅速に網羅的に実施することが可能になりました。

この時から、『化合物に対して、どんな作用・効果があるか』という探索から

『目的の病態に作用・効果がある化合物はどれか』というように、探索視点そのものが逆転したことが大きな変革でした。

探索対象の変遷

創薬研究 において新たな薬のタネとなる探索対象が従来から変化しています。

・低分子化合物

基礎研究手法の変遷から、多くの場合その主役となってきたのは”低分子化合物です。

定義は様々ありますが、およそ分子量が1000以下のものを指します。
ここから、タンパク質工学の向上やゲノム解析の躍進から、分子標的薬や抗体医薬といった、分子量1万を超える高分子化合物(バイオ医薬品)が登場し始めます。

・高分子化合物

高分子医薬品の代表例として「タンパク質製剤」「抗体医薬」があります。

「タンパク製剤」:体内に存在する遺伝子そのものをクローニングして医薬品とした製剤
         エリスロポエチン製剤、G-CSF製剤など血液内科に貢献する製剤が誕生しました。

「抗体医薬品」:体内の免疫反応を担う抗体を利用した医薬品です。


「分子標的薬」や「抗体医薬」は90年代ごろから研究が進み、2000年代には多くの薬が誕生しています。
これらの医薬品最大の特徴は、標的部位に特異的に作用する点です。

 
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低分子化合物はよくも悪くも、身体に対して異物です。

生理反応のうち、
メリットがあるもの=薬と捉える考え
はとてもシンプルだといえます。
 
RYU
その半面、抗がん剤等は正常な細胞にも負荷がかかる副作用の多い薬が主流だったといえます。



分子標的薬、抗体医薬の素晴らしいところは、特定の遺伝子配列による特異タンパク質(抗原)部分対してのみ作用が可能であることです。

がん細胞が特異的に発する抗原を目標に抗体が結合し、無力化、あるいは低分子化合物を病原部位に運び込むことでがん細胞を攻撃することが可能です。

抗体精製技術も進歩し、完全ヒト抗体の医薬品も登場し、副作用も起こしにくい改良もなされています。

※抗体医薬については国内のリーディングカンパニーである中外製薬HPに詳しく記載があります。
 とても勉強になります。

中外製薬HP よくわかる抗体医薬品



非常に有用な抗体医薬ですが弱点があります。


ここで思い出されるトピックとしては『オプジーボ』ではないでしょうか。
『オプジーボ』においては、先の医療費問題、特許問題で紛糾した事例となっています。

※薬価の件について簡単に説明します。

医療用医薬品は製造販売承認後、保険適用のため公定価格として薬価が設定されます。
設定の基準は、企業側の開発品の製造コストも勘案してくれるものですが、該当の薬を必要とする患者の数(=市場)の規模によって得られる経済効果が大きな判断基準となります。

このとき、『オプジーボ』は悪性黒色腫(メラノーマ)という、”ほくろの癌”の薬として承認を得ました。

市場規模から相応の薬価が規定されましたが、翌年、肺がんにも有効であることが認められます。肺がんはメラノーマにくらべ市場規模が50倍に及ぶ領域であるため、通常は2年に1回の薬価改定を、緊急改定として約半額の薬価指定となりました。

 
RYU
製薬企業の上市戦略として些か極端すぎたかもしれません
創薬研究 が多くのアンメットメディカルニーズを充足させる一方、企業成長を考えた営利目的として非難することもできないと個人的に思っています。

国の医療財源を踏まえた措置の結果として、薬価を半減されてしまった事例です。

・中分子医薬品 (核酸医薬品)

さて、お気づきの方もいると思いますが分子量が中くらい(1000から10000くらい)の医薬品が抜けていると思った方も多いと思います。

低分子と高分子(タンパク質)の中間要素として、ペプチド医薬が台頭し、代表的なものが「核酸医薬品」です。

従来の「抗体医薬」は疾患に関わるタンパク質を標的としてましたが、核酸医薬はタンパク質の合成そのものを制御することを目的としています。

mRNAに直接作用することで、創造されるタンパク質自体を制御するので、様々な病態に応用が期待されています。



メリットは低分子化合物のように化学合成が可能である点です。そのうえ、タンパク質制御が可能となるなら抗体医薬に匹敵有用性が得られるかもしれません。

現状の課題は、核酸分子の生体内での安定性や副作用懸念、薬物送達の課題等が想定されています。最大の課題は核酸干渉に関する基本特許が欧米企業に独占されているため、日本企業の開発は遅れとる形となっています。

詳しいトレンド詳細はこちら

 AnswersNews> 核酸医薬 本格的な導入期に…日本新薬「初の国産」を申請

以上のように期待されるメリットを考えると、抗体医薬の次代を担う技術となるのは間違いなく核酸医薬だろうと予想がされています。

開発化合物発見

創薬研究 において、物理的探索によって見出された化合物が新薬候補として開発フローに乗じる流れを紹介しましたが、近年はコンピューターを用いたシミュレーション創薬も軌道にのりはじめています。


複雑なタンパク質構造解析が進み、分子構造そのものを具現化することで、化学的に加え物理的な構造特性を踏まえて親和性検討などが可能になってきました。

技術進歩によって『化合物に対して、どんな作用・効果があるか』という探索から、『目的の病態に作用・効果がある化合物はどれか』にシフトしたはずが、『目的のタンパク質構造に適した分子設計は何か』というスタンスにさらに進歩しているのは明るい話だと思っています。

可能性の発見と現実

様々なシーズ化合物の探索方法がありますが、発見されたすべてのシーズが医薬品開発に進むとは限りません。

様々な探索方法や対象が変遷していくとともに、開発する目的も大多数の患者が予見される市場から、
アンメットメディカルニーズと呼ばれるより少数でニッチな特異的領域の新薬開発を目指した選択が主流となりつつあります。

その主な理由は
・主要な領域研究がすでに飽和状態となっていること
期待される価値が高水準
であるからです。

循環器や内分泌に関する薬は研究しつくされ、現状の薬に対して画期的と呼ばれるほどの価値のある薬を生み出しにくくなっています。


かつては人類共通の課題であった癌分野についても、画期的な医薬品の登場で価値観が変化しています。

要するに、市場も大きくニーズも高い、優先順位が高い分野はあらかた研究開発が進んでしまったため、創薬研究 の対象も、これまで優先順位の低かった小市場の疾病領域の創薬に舵を切る必要が出てきた、ということです。


技術革新によりニッチで高度な開発が可能になった一方、技術進歩による開発費用の高騰というジレンマが存在します。

製薬会社も一企業という立ち位置から、臨床意義だけでは開発が困難な状況も少なくありません。
加えて技術的な遅れ、特許対策の遅れから後塵を拝する形が多くなった今の日本の基礎研究環境の衰退も目立っています。

複雑な背景を抱える日本医療に本気で向き合う必要があるかもしれません。

創薬研究 の分野で薬剤師は活躍できるか。

創薬研究 分野には多くの薬学出身の研究者がいる一方で、当然ながら各分野のエキスパートも多数存在します。

 
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だからこそ、はっきり言って創薬研究分野では、国家資格としての薬剤師にアドバンテージはありません。

当該分野への就職においてライバルも大勢います。

しかし悲観的になる必要もありません。

何を専攻したかより、これから何ができるのか、何がしたいのか。研究者としての姿勢や本質が採用の優先事項だからです

 
RYU
私が思う薬剤師の強みは、
・物事を科学的に、多面的に評価が可能なこと
・医薬品を取り扱う者の倫理面の素養
以上の2つだと思っています。

就職では確かに、
企業が求める分野の専攻かどうかが重要な部分もあります。
研究者単位のつながりや、特定の教授のいる大学や研究室にコネがあることも少なくありません。

しかし私が思うに、コネはあくまでただのラッキーです。そうそう多くはありません。

何をやったのかよりも、

『どのように』、『どのくらい』取り組んできたか、しっかり伝えられる人こそが研究者としての素質があるように思います。

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