日本には古くから郷土に伝わる伝統薬・家庭薬が多数存在します。
今ではなかなかお目にかかれないものも多いですが、根強い固定ファンが存在するのもまた事実!魅力ある伝統薬・家庭薬について紹介していきます。
中将湯
『中将湯』は婦人薬として用いられる生薬製剤です。月経や更年期障害に伴う頭痛、肩こり、腹痛、腰痛、冷え、のぼせ、めまい等、不快な症状を改善します
効能・効果 | 産前産後の障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、血の道症※、更年期障害、不安神経症、月経不順、月経痛、頭痛、肩こり、腹痛、腰痛、冷え症、のぼせ、めまい、耳鳴り、不眠症、息切れ、動悸、むくみ、感冒※血の道症とは…月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状をいいます。 |
用法・用量 | 成人(15歳以上)1日1袋を使用し、朝夕就寝前の3回服用する。 1~2回目は1袋をカップに入れ、約180mLの熱湯を加えてよく振り出し、朝夕食前に服用する。 3回目は、朝夕に使用した残りの袋に水約270mLを加えて約180mLに煮詰め、就寝前に服用する。 15歳未満は服用しないでください。 |
成分・分量 | 日局 シャクヤク:2.0g 日局 トウキ:2.0g 日局 ケイヒ:1.5g 日局 センキュウ:1.0g 日局 ソウジュツ:1.0g 日局 ブクリョウ:1.0g 日局 ボタンピ:1.0g 日局 トウヒ:0.7g 日局 コウブシ:0.5g 日局 ジオウ:0.5g 日局 カンゾウ:0.4g 日局 トウニン:0.4g 日局 オウレン:0.2g 日局 ショウキョウ:0.1g 日局 チョウジ:0.1g 日局 ニンジン:0.1g |
婦人薬とは
女性のライフスタイルや体質に沿ったお薬です。女性は生理現象としてホルモンバランス変動が現れることが多々あります。ホルモンバランスの影響で気分や体調に影響が出ることも少なくないため、漢方生薬を中心に症状に合わせた薬が作られた背景があります。
漢方薬の3大処方といえば、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸ですが、日本の家庭薬として独自配合された生薬製剤も存在します。
由来・歴史
歴史
中将湯は漢方薬のリーディングカンパニーであるツムラが、創業以来100年以上の長きにわたって販売しているロングセラー商品です。
初代・津村重舎(現ツムラの前身・津村順天堂の創業者)が東京・日本橋に「中将湯本舗津村順天堂」の看板をかかげたのは、明治26年(1893年)のことでした。
日本家庭薬協会HPより
そもそも中将湯は、初代津村重舎の母の実家である藤村家(奈良県)に代々伝わる婦人病の妙薬でした。この薬の由来は、能や浄瑠璃に演じられてきた「中将姫伝説」に始まります。
中将姫伝説
中将姫とは奈良の當麻寺に伝わる『当麻曼荼羅』を織ったとされる伝説上の人物です。天平19年(747年)藤原鎌足の曾孫である藤原豊成とその妻、紫の前との間に待望の女の子が生まれ、中将姫と名付けられました。
当麻寺奥院HP、日本家庭薬協会HP、一部引用
しかし、姫が5歳の時に母が亡くなった後、後妻として照夜の前を迎えました。継母は姫を憎み、姫が14歳の時、継母は配下に中将姫を殺すように命じました。しかし自らの因果と覚悟を決めた心優しい姫を殺せなかった家臣は、ひばり山・青蓮寺に姫を隠しました。
翌年、狩りにでかけた豊成卿に発見され都に連れ戻された姫でしたが、継母の照夜の前は罪の意識から身を投げて命を落としてしまいます。その後中将姫は出家し、世上の栄華を望まず仏の道に仕えることを決心し、当麻寺至ります。その後、修業が認められ中将姫は正式に当麻寺に入り中将法如という名前を授かります。
この物語のなかで、中将姫がひばり山で最初に身を寄せたのが藤村家といわれ、それを契機に婦人病に良く効く秘薬を藤村家に伝えられたと言われています。その後藤村家の娘が津村家に輿入れしたときに持参したものが今日の『中将湯』に至ると伝えられているようです。
効果について
中将湯は漢方でいう「虚証:虚弱タイプ」「実証:イライラや熱がこもりやすいタイプ」どちらのタイプの人でも服用できるように改良され、幅広い人に使用が可能となっている薬と言えます。
処方としては桂枝茯苓丸、四物湯、四君子湯に準じたもの担っています。
構成生薬 | 中将湯 | 桂枝茯苓丸 | 四物湯 | 四君子湯 |
---|---|---|---|---|
シャクヤク | ○ | ○ | ○ | |
トウキ | ○ | ○ | ||
ケイヒ | ○ | ○ | ||
センキュウ | ○ | ○ | ||
ソウジュツ | ○ | ○ | ||
ブクリョウ | ○ | ○ | ○ | |
ボタンピ | ○ | ○ | ||
トウヒ | ○ | |||
コウブシ | ○ | |||
ジオウ | ○ | ○ | ||
カンゾウ | ○ | ○ | ||
トウニン | ○ | ○ | ||
オウレン | ○ | |||
ショウキョウ | ○ | ○ | ||
チョウジ | ○ | |||
ニンジン | ○ | ○ | ||
タイソウ | ○ |
・桂枝茯苓丸
ケイヒ、シャクヤク、トウニン、ブクリョウ、ボタンピ
効能効果:比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷えなどを訴えるものの次の諸症: 月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、血の道症注)、肩こり、めまい、頭重、打ち身(打撲症)、しもやけ、しみ、湿疹・皮膚炎、にきび(実証)
・四物湯
トウキ、センキュウ、シャクヤク、ジオウ
効能効果:皮膚が枯燥し、色つやの悪い体質で胃腸障害のない人の次の諸症//産後あるいは流産後の疲労回復、月経不順、冷え症、しもやけ、しみ、血の道症。(虚証)
・四君子湯
ソウジュツまたはビャクジュツ、ブクリョウ、ニンジン、カンゾウ、ショウキョウ、タイソウ
効能効果:やせて顔色が悪くて、食欲がなく、つかれやすいものの次の諸症。胃腸虚弱、慢性胃炎、胃のもたれ、嘔吐、下痢。(虚証)
・中将湯
シャクヤク、トウキ、ケイヒ、センキュウ、ソウジュツ、ブクリョウ、ボタンピ、トウヒ、コウブシ、ジオウ、カンゾウ、トウニン、オウレン、ショウキョウ、チョウジ、ニンジン
効能効果:産前産後の障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、血の道症※、更年期障害、不安神経症、月経不順、月経痛、頭痛、肩こり、腹痛、腰痛、冷え症、のぼせ、めまい、耳鳴り、不眠症、息切れ、動悸、むくみ、感冒
まとめ
今では漢方・生薬のリーディングカンパニーであるツムラの礎となる処方でした。出自に伝説が絡んでいるなんてとてもワクワクするお薬です。しかし侮るなかれ、処方組を見ると婦人薬としては様々なタイプに適用となれる理になかった処方であることもわかりました。現在でも十分通用する処方であるため、実用的は伝統薬としてこれからも愛されていくと思います。自分のタイプがよくわからない人にとっても万人に対応可能な中将湯をお試して使用してみても面白いかもしれません。