薬事とは? 何をやるの?具体的な職務について解説します。薬事部こそ薬剤師の活躍の場!?

製薬会社の”薬事”領域について

薬事とは、製薬企業において薬機法に関わる行為について管理対応する部署です。
と、一口に言ったものの、その職務領域は非常に広いのです。

ここでは医薬品開発のフェーズごとに分類するなら、

開発薬事(薬事申請前の製品を対象)
薬制薬事(薬事申請後の製品を対象)
CMC薬事(製品”自体”を対象)

となります。
これは一つの切り分け方のひとつであり、扱う対象物ごとと分類とするなら

製造販売承認書
製品の品質保証
世間情勢や法改定(薬制)への対応

と分けることができます。それぞれを主体として対応する作業が”薬事”と呼ばれています。

薬事職は製薬会社の根幹領域

薬事 職は製薬会社の根幹となる領域です。

薬業種は薬機法によって規制され、対応しないことには営業が不可能だからです。

製薬会社は医薬品を製造販売して市場に供給することで医療を支える重要な役割を担っています。

しかし医薬品はその特性上、厳重な品質や安全性が問われる業種です。

だからこそ”薬機法”という特別な法規に規制されているのです。

 
RYU
医療とは社会貢献の意義が高い業種だからこそ厳しい規制を受ける領域と言えます。

法規の特徴も包括的で多角的な視野が求められます。

でも大丈夫。
そんなに難しいことではありません!

薬事部だけが薬機法に精通していればOKじゃない!!

製薬会社では薬事部はスペシャリスト扱いを受けます。

当たり前といえば当たり前です。しかしながらスペシャリストの存在が「専門的なことは薬事に任せておけばいいや」という気持ちを生んでしまう部分があります。

作業効率としては専門家に任せることが正しいかもしれません。

しかし創薬事業ではどの職掌でも必ず薬機法に関わる規制を受けているといえます。

だからからこそ、法規制の理解こそキャリア形成の中で重要であると気がつく必要があります。

 
RYU
研究職、開発職、営業(MR)、製造部門。
それぞれどんな職種でも必ず法規が関わる部分があるはず。

それらを体系的に捉え扱う仕事こそ”薬事職”なのです。
そう考えると興味が湧いてきませんか??

薬事は大きくわけて3領域

薬事領域は幅広く、極論全ての作業に関わります。

そのため会社毎の区割りや呼称がバラバラになっています。このことが薬事部の理解を更に複雑にしています。

特に、会社毎の部門名 ⇔ 職掌上の分類 
これらを混同させてしまうと収集がつかないのでご注意ください。

ここで取り扱う3領域は職掌上の分類を私が分類したものです。

企業毎の部署名に同じ名称が使われていても、必ずしも同じ職務ではない場合があることをご承知おきください。

それでは、薬事領域について解説していきます。
大きく3つに分類する場合は以下のようになります。

  • 開発薬事
  • 薬制薬事
  • CMC薬事

以下、具体的な定義を説明していきます。

開発薬事

開発薬事とは、
『医薬品の申請業務(承認までの行政対応を含むあらゆる対応)、承認を得ることを担当する薬事職』です。

医薬品の承認申請は
・効果や安全性:研究、臨床開発が収集したデータ
・製造や品質:製造部門が確立したデータ
これらを集約して行政に申請します。そしてこれらを集約して申請する職域を『開発薬事』と呼びます。


主な役割は申請作業のスケジュール管理・進行です。

承認作業は非常に重要で、予期せずに申請作業が遅れてしまうと、薬を待っている患者が苦しむという社会的意義だけではなく、企業としては収益につながる材料の投下が遅れることで企業活動に影響を及ぼす可能性さえ含みます。

開発薬事は、予めスケジュールを確認し長期化のリスクを最小化します。

具体的な業務業務の意図
承認申請の計画・戦略を立てる 法規制や情勢変化、タイミング、海外申請と同調など、様々な状況で承認スケジュールが左右される可能性があるため
実際の申請資料を作成 CTDなど、決まったフォームに合わせて編集する必要があるため
申請前に資料全体を総括し、情報の不備や不足を指摘 行政との窓口となるため、臨床試験から製造まで幅広く知る必要がある
申請中に予想される質問への対応、準備 申請作業にはほぼ必ず行政からの質問があるため

 総じて全体像の理解が求められる職種と言えます。また、行政の窓口となる職であり下手な対応で行政からの信用を落とすと、承認申請作業自体が非常に懐疑的なものになってしまいます。

行政との折衝の”窓口”となる職種でもある

行政との折衝となる職種という分類から、会社によって”承認後の承認書変更管理”作業も担う場合があります。

一方で医薬品として承認されたものは別の部署の管轄とする会社も存在するため一概には言えませんのでご注意ください。

申請作業の事務作業となる職種でもある

とはいえ、総合的な作業は事務作業です。

なので更に細かく役割分担をして、スケジュール進行管理をする人を申請マネージャー申請資料を作成する人をメディカルライティング(MW)と呼ぶ場合もあります。

薬制薬事

薬制薬事とは、
『医薬品の承認後、品質・安全性・供給に関するあらゆることの管理を担当する薬事職』です。

 医薬品は承認されたら難しい作業は全部おわり…などではなく、承認後も厳しく管理されます。

常に最新の法規制や情勢に合致した管理に対応する必要があります。

医薬品は常に
・製造販売するメーカーとして、品質・安全性・安定供給を確保する義務がある
・ 情勢・規制・原料の枯渇などの理由で製造中止や変更を迫られる場合がある
・規制や情勢変化に合わせた管理方法を設定する必要がある

このように、承認後の医薬品の状況変化に応じた対応をする領域を『薬制薬事』と呼びます。

主な役割は上記のとおり、企業義務や時勢に合わせた対応が求められます。

それらを怠ったり、違反した場合はダイレクトに企業の信用問題へのつながり、企業活動に大きな影響を及ぼす可能性があります。

具体的な業務 業務の意図
自社製品の不具合、副作用等に対する対応 安全、高品質な製品を供給する義務があるため
時勢に合わせた新たな規制情報の収集、対応 情勢や科学技術の進歩によって規制領域が変化するため
品質に関わる製造の変更に対する評価・判断 変化に対応した場合でも、以前と同等な品質なものを供給する義務があるため
市場への製品安定供給を維持するためのリスクアセスメント 急な変化やアクシデントで製造がストップするのを防ぐため

総じて、医薬品の品質・安全性に関わる対応や、製品を安定的に維持する役割を担います。

法規制や情勢の変化に常にアンテナを張って情報収集したり、変化に対応する為の最終的判断を担うことが多いため、様々な視点からの状況判断が必要になります。

政治的な側面だけではなく、製造(ものづくり)としての変更妥当性を評価するための資質として、科学的視点での判断力も必要な職種といえます。

大変高度な役割であるためある程度の経験が必要ですが、非常にやりがいのある仕事といえます。

承認書ホルダーではなく、品質保証部門が対応するケースが多い

 多くの場合、『薬制薬事』は信頼性保証本部における薬事本部、特に品質保証部が対応を担います。

・製造販売承認書:承認書ホルダーは製造販売業(メーカー自身)
・品質保証部:製造販売業者が設置する品質・安定性・安定供給を担う部門領域(メーカーが持つ必須の機能)

となります。

つまり品質部門は承認書ホルダー(製品という財産の所持部門)ではないため、品質部門が主体的に管理することに多少矛盾を感じる場合もあります。

そのため、品質保証とは別組織として承認書を管理する部門を設置している会社も存在します。

CMC薬事

CMC薬事(Chemistry, Manufacturing and Control)とは、
『承認書に記載されている製造方法に関わる品質管理を担当する薬事職』といえます。

製造販売承認書という最も重要な文書の管理に関わる薬事職といえます。

承認書には医薬品の性状に関する情報、製造法、分析方法が記載されています。

つまり医薬品自身の性格を捉えたレシピと言えます。

製造や分析に関する内容なので、物理的、化学的な素養は勿論、細胞や生物学的製剤をとりあつかえば当然、生物学的視点が要求される科学のエキスパートである必要があります。

加えて、行政に文書として提出する上ではレギュラトリーサイエンスといった薬事的お作法も理解する必要がある職です。

近年では承認書と製造実態の齟齬が大きな問題となっていますが、大きな関わりをもった職掌といえます。

具体的な業務 業務の意図
製剤全体像としての品質規格・安定性などの性質を把握高品質な医薬品を安定的に製造するには、合理的で妥当性のある方法を設定する必要があるため
材料(原薬・添加物)の変化(製造中止、国際条約で輸入が禁止、などさまざま)に対する影響の検討レシピが変更せざるを得ない場合にも、同等の品質の医薬品を供給する必要があるため
製造方法の変更に関する影響の検討変更があっても、前後の品質が同等な製品を供給する義務があるため
製品の品質を評価する具体的な分析方法品質を確保するための合理的かつ妥当性の高い判断基準の設定によって安定的な製造が可能なため

医薬品の管理視点は様々です。

これらは規制や情勢変化で変動する可能性が高く、その変更自体が問題ないことを常に判断しなければなりません。

変更によって問題がある場合は当然販売ができなくなってしまいます。

また急な対応も難しいため、常にイベント発生を注意し見えているリスクについては計画的な対応が迫られます。

担当している領域は『薬制薬事』にも近いですが、より実務的な変更作業の判断を担う役割が特徴的と言えます。

またCMC薬事は申請前後での区切りがありません。

というのも、医薬品の特徴を常に捉える職域のため、承認時点で分断できる領域ではないからです。

開発時点から承認後も、一貫して品質の維持・改善の管理を担っていく領域となっています。

CMC薬事は担当領域の設置場所が最もバラバラ

CMC薬事は具体的な製造に関わる管理ですが、会社によってその領域の設置部門はバラバラです。

■ 製造現場に設置する場合
最も多いパターンに思います。

この場合、現場の担当者が変更を検証し、承認書の変更内容の素案を作成します

実際の承認書変更作業をやる場合もあるかもしれませんが、工場と製造販売業の所在地が異なる場合は不便が多いため、本部作業員が変更作業を実施すると思います。

現場に近い部門に設置がされるため、
工場の品質保証部門(CMC薬事)ー 本部の品質保証本部(薬制薬事) の関係性になる場合があります。


メリットは、承認前後での区切りはなく、現場の部署が一貫して担当できることです。

■『開発薬事』に近い場合
行政に提出する申請資料を作成する『開発薬事』部門が担います。

製造現場にも協力を得ながら、本部のCMC薬事担当者が承認書の変更内容の素案を作成します

メリットは、行政文書の体裁を把握し、行政交渉に長けた部門が担当できることです。

特に近年では海外申請作業などもあるため、行政交渉の窓口が自身で資料を作成することが、迅速な承認取得のカギともいえます。

『薬制薬事』に近い場合

薬制薬事は製品の最終的管理責任を負う品質保証部門が担うケースもありえます。

メリットは、最終的に品質にも関わる領域のため、統括した管理ができることです。

しかし、『開発薬事』から『薬制薬事』に引き継ぐ場合、担当者が変わる可能性が高くあります。

前任者の意図などを共有がうまく行かないことで、変更作業が滞る可能性がある点はデメリットかもしれません。

また、実務と監査・承認部門が同一になるケースは避けたいため、CMC薬事を薬制薬事部門が担うケースは少ないよう思います。

各領域へのステップ

薬事職3領域について解説しました。それぞれが製薬企業の中枢たる領域を担っている職掌といえます。

そのため、ある程度の経験が必要なことは確かです。それぞれの領域へまでのキャリアステップを紹介します。

『開発薬事』へのステップ

申請の全体スケジュールを握り、多様な資料をまとめ上げ、承認申請作業の窓口となる職種であるため包括的な理解が必要です。

『開発薬事』領域の部員と協働する機会が多い、臨床開発職からステップアップして転籍する人が多いと言えます。

その他、申請資料では医薬品の製造方法、分析方法の詳細記載があるため、それらを理解できる品質管理(QC)部門などからの転籍者も想定されます。

『薬制薬事』へのステップ

『薬制薬事』は多くの場合、品質保証部が担うケースが多いです。

品質保証部では
製造三役(総括製造販売責任者、品質保証責任者、安全管理責任者)を中心とした組織が組まれている可能性が高いです。

※安全管理部(安責)は営業部の場合も多いですが…

品質保証責任者(品責)を中心としたGQP業務領域へのステップ

GQP領域に近い部門が担う場合は製造領域(生産管理職)品質管理(工場QC,QA)からの転籍が期待されます。

それぞれ現場での管理、変更対応があるため品質への影響を考える部門への転籍もスムーズと言えます。

安全管理責任者(安責)を中心としたGVP業務領域へのステップ

GVP領域に近い部門が担う場合は営業(MR)臨床開発職(市販後調査)からの転籍といえます。

MRは安全管理活動を現場で担ってきた経験や、医療機関への訪問などから情勢把握にも長けています。

市販後調査は臨床開発第4相とも呼ばれ、医薬品市場販売後の臨床試験となります。そのため、安全管理領域と協働するケースが沢山発生します。

『CMC薬事』へのステップ

現場での化学的視野に加え、日本薬局方などのレギュラトリーサイエンスの視点も必要となります。

そのため実働として関わっている職種からのステップが考えられます。

分析方法を立ち上げに関わる分析研究職から、実務を担当する品質管理(QC)部門からの転籍が考えられます。

ラボスケールの試作品を作る製剤研究職、実製造のスケールアップを担う生産管理職などからステップアップするケースが多数です。

実務経験からベースとなる薬事領域へのステップアップが王道

それぞれの実務経験から、上位の薬事領域への挑戦が主なステップとなります。

そのため薬事領域は比較的経験のある構成年齢が高めのメンバーとなりがちです。

多くの場合、薬事職は相応に責任ある仕事、相応に複雑な領域であるため、若手の志願者が少ないようにも思います。

薬事領域こそ薬剤師が必要

ここまで薬事職について解説してきました。

・包括的な全体像の理解
・多角的な科学的視点
・医薬品の製造三役(特に総責)は薬剤師の資格が必要なこと

以上のことから薬剤師が活躍可能な領域であることに間違いありません。

しかしながら、市場において薬事に明るい薬剤師はほとんどいません。

 
RYU
考えられる理由は
・企業は薬剤師を採用しているが、戦略的に薬事人材を育成していない
薬剤師自身に強みを活かせる情報が少ない
・薬剤師自身が難しい職掌に及び腰
などが考えられます。

企業の新卒採用は”現場仕事”の採用が普通です。

そして徐々に中枢職にキャリアアップするのですが、せっかく採った薬剤師のキャリア形成をあまり重要視していません

そもそも、入社時点では想像しにくいキャリアには、挑戦しにくいものです。

そのため、本来は新卒時点からの薬事人材教育も視野に入れる必要があるのです。

また、薬剤師側のハードルとして、薬事職の情報がとても曖昧なのも問題です。

具体的な業務がわからず想像しにくいことが、志望者が出にくい原因となっています。

また薬剤師の体質として、難解そうな仕事、大きな責任を伴う薬事業務を回避してしまう傾向があるように思っています。

このあたりに強い意志のある方なら、若くしても薬事人材として活躍できるチャンスがたくさんあるように思っています。

薬事職は実務は法律だが、ベースは基礎薬学全般

 
RYU
薬事職は法律を扱う職業です。

それだけで拒否反応を起こす場合もありますが、実のところ物理、化学、生物、薬理や病態学なとがベースになっているためとても面白い領域なのです。

法律上の是非を考える前に、実際は事象を科学的に捉えることが必要なのです。そこが一番の醍醐味だといえます。

”薬事職”への転職は経験者採用ばかりだが、チャンスはある

薬事人材はとにかく、市場にとても少ないのが現状です。

そのため、求人市場ではそこそこの募集があるのですが、多くの場合は経験者採用となっています。

経験者が欲しい気持ちがわかりますが、現状市場に人材はそれほど多くありません。

今のままの構造ではこれから薬事人材が増えることも期待できません。

 
RYU
”薬事職”はたしかに経験が必要なポジションです。
しかし薬剤師であれば未経験でも早期の対応が可能だと思っています。
なぜなら法理解などの素養が備わっているからです。具体的な経験は実務をやればすぐに身につきます。

必要なのは”チャンスの提供”なのかもしれません。

転職の際、エージェントの折衝能力によっては、未経験業務への挑戦が叶うかもしれません。

※私自身も未経験職種への挑戦を考える方のキャリアカウンセリング、就職支援をしておりますので、気になる方はお問い合わせください。

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